2026年4月に公表された複数の調査報告によると、2026年第1四半期(1〜3月)における米国特許争訟の件数が大幅に変動した。特許審判・不服申立部(PTAB)への申請件数が前年同期比64.2%減と歴史的な低水準に落ち込む一方、米国国際貿易委員会(ITC)へのSection 337申立件数は同70%増と急増している。この対照的な数字は、PTAB制度を取り巻く政策変更が特許争訟フォーラムの選択に直接影響を与えていることを示している。
PTABへの申請動向
ユニファイド・パテンツ社のQ1 2026特許争訟レポートおよびIAMメディアの分析によると、2026年第1四半期にPTABへ提出されたIPR(当事者系再審査)申請件数は前年同期比66.3%減となった。全種別を含むPTAB申請件数は合計131件と、2012年のAIA(アメリカ発明法)施行以来最低水準まで落ち込んでいる。
この急落の主な要因として、ジョン・スクワイアーズUSPTO長官体制下で進めてきた裁量的却下(discretionary denial)の強化が挙げられる。2025年後半から導入された「settled expectations(定着した期待)」法理は、特許付与から時間が経過した特許に対するIPR申請を実質的に困難にした。さらに、2025年11月の連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)判決「In re Motorola Solutions, Inc.」は、USPTO長官によるIPR裁量的不開始・中止の決定が司法審査から遮断される可能性を示したことで、申請人のIPR利用に対する抑止効果を高めた。
一方、ex parte再審査(一方当事者系再審査)の申請件数は前年比157.1%増と急増しており、特許無効化手続きの重心がIPRから一方当事者系再審査へとシフトしていることを示している。Q4 2025比でもIPRは35.4%減、ex parte再審査は21.2%減だが、前年比ではex parte再審査が157.1%増と対照的な推移を示した。
ITCへのSection 337申立動向
PTABへの申請が減少する一方、ITCへのSection 337申立件数は2026年第1四半期に前年同期比70%増を記録した。米国地方裁判所への特許訴訟提起件数が同19%減であることと合わせると、特許権者はITCを最も有効な権利行使フォーラムとして位置づけ直している様子が読み取れる。
このITC活用増加の背景には、2025年3月のLashify判決(連邦巡回区控訴裁判所)の影響が大きい。同判決はSection 337が要求する「国内産業要件(domestic industry requirement)」の経済的プロングの解釈を拡大し、外国企業・中小企業・非実施主体(NPE)を含む幅広い申立人がITCに訴えやすくなった。PTABが利用しにくくなったことで、実施停止命令(exclusion order)という強力な救済手段を持つITCの相対的な魅力が一層高まっている。
地方裁判所の動向
連邦地方裁判所への特許訴訟件数は2026年第1四半期に前年比19%減少した。PTABの下落幅(64%)と比較すると小さいものの、IPRを主要な無効化手段としていた被疑侵害者の一部が訴訟戦略の再構築を迫られている状況を反映しているとみられる。
今後の展望
PTABの申請件数急落とITC活用の急増というトレンドが続くとすれば、特許争訟の実務は大きな変容を迎える。IPR申請という防御手段を失いつつある被疑侵害者にとっては、地方裁判所またはITCでの応訴、あるいはex parte再審査の活用が現実的な選択肢となる。この局面では、特許権者とライセンシーの双方が争訟フォーラムの選択戦略を見直す必要がある。
この記事について
パテント探偵社 編集部
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