USPTO、職権再審査に「事前提出」手続を新設——特許権者は審理開始決定前に30ページの反論書提出が可能

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米国特許商標庁(USPTO)は2026年4月1日付の官報通知(Official Gazette Notice)に署名し、職権再審査(ex parte reexamination)において特許権者が「重大な新規特許性問題(Substantial New Question of Patentability、SNQ)」の不存在を主張する書面を提出できる新手続を導入した。2026年4月5日以降に受理された再審査請求に適用される。

新手続の下では、特許権者は再審査請求の送達から30日以内に、請願書(petition)や手数料なしで最大30ページの「事前提出書面(pre-order paper)」を提出できる。同書面は、請求書が示す先行技術の教示がSNQを提起するには不十分である理由に絞って記述する必要がある。一方、請求人(第三者)が反論を提出できるのは限定された場合に限り、37 CFR 1.182に基づく請願書の提出と所定手数料の納付が必要で、10ページの上限が設けられる。

導入の背景:IPR制限による職権再審査の急増

USPTOは新手続の理由として「職権再審査請求の近年の増加」を挙げる。この増加は、Squires長官が進めるIPR(当事者系審査)の制限強化と直接連動している。IPRへの裁量的却下が増えた結果、特許無効を求める当事者が職権再審査を代替手段として活用するようになった。2026年第1四半期(2025年10月〜2026年1月)だけで223件の請求が受理されており、年間換算で約900件に達するペースだ。Squires長官は2025年3月の連邦議会証言でも「再審査制度は常にある」と述べ、IPRの代替として位置づけていた。

従来の実務では、特許権者が初めて反論できるのはUSPTOがSNQを認定して再審査を命令した後だった。新手続は、この入り口段階で特許権者が主張を展開できる機会を与えるものであり、費用のかかる本格的な再審査手続への移行を未然に防げる可能性がある。

法的問題:規則制定手続を経ない「緊急免除」

ただし、この新手続には行政手続上の問題が指摘されている。既存の規則との整合性が問われるためだ。37 CFR 1.530(a)は「職権再審査手続において、SNQ決定が行われる前に特許権者が陳述書その他の書面を提出することはできない」と明示し、早期に提出された書面は「審理に考慮されず、返却または廃棄される」と定めている。37 CFR 1.540も同様の趣旨で、所定の手続外での提出は「審査前には考慮されない」としている。

USPTOは、これらの規則を行政手続法(APA)に基づくパブリックコメント付きの正式規則制定手続を経て改正するのではなく、37 CFR 1.183に規定された「特別な状況において正義が要求する場合」に長官が規則を停止・免除できる権限を行使している。官報通知は「事前提出書面が有効であることが確認できれば、規則改正を検討する」と述べており、今回の免除が恒久的な法的根拠ではなく暫定措置であることを庁自身が認める形となっている。

Accardi v. Shaughnessy事件(347 U.S. 260、1954年)およびService v. Dulles事件(354 U.S. 363、1957年)の判例が示すように、行政機関は自己の規則に適正な改正手続を経るまで拘束される。37 CFR 1.183による免除を「緊急措置」として活用する今回の対応については、その法的安定性に疑問を呈する見方もある。

実務への影響

実務面では、新手続は特許権者にとって有利な変更といえる。請求書が提出された段階で早期に反論できることで、再審査の開始自体を回避できる可能性が生まれる。弁理士・弁護士の観点からは、送達から30日という期限内に質の高い30ページの書面を作成する実務対応が求められる。

一方、第三者の立場(特許無効化を求める被疑侵害者等)にとっては、従来は一方的に審理が開始されていたプロセスに防衛側の声が入ることで、SNQ認定段階での却下リスクが高まる。

IPRの利用制限、職権再審査の急増、そして今回の事前提出手続の導入——これら一連の変化は、Squires長官体制下でのUSPTO特許審査・審判制度の大きな転換を示すものとして、業界から注目を集めている。

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パテント探偵社 編集部

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