米国特許商標庁(USPTO)は2026年4月1日、ex parte再審査(ex parte reexamination)手続きに新たな制度を導入した。第三者から再審査請求が提出された際に、特許権者が実質的新規問題(SNQ: Substantial New Question of Patentability)の有無について意見を申し立てられる「事前提出(pre-order submission)」手続きである。同制度は2026年4月5日以降に提出されたすべての再審査請求に対して即時適用される。パブリックコメントの募集期間は2026年5月30日までとなっており、最終的な規則の整備に向けた手続きが進んでいる。
この制度変更の背景には、近年の米国特許無効手続きをめぐる動向がある。2011年の米国特許改革法(Leahy-Smith America Invents Act: AIA)施行以来、特許異議申立ての主要な手段は特許審判・審判部(PTAB)におけるinter partes review(IPR)となっていた。IPRは特許権者に対する強力な無効化ツールとして幅広く活用されてきたが、USPTOは近年、IPRの濫用を防ぐ観点から裁量的不受理(discretionary denial)の適用を積極化させてきた。並行訴訟の進捗を考慮するFintiv基準の運用強化や、35 U.S.C. § 325(d)に基づく重複請求の排除など、複数の施策がIPR申立てのハードルを引き上げていた。
この裁量的不受理の強化を受けて、代替手段として脚光を浴びたのがex parte再審査である。ex parte再審査はAIA以前から存在する制度で、第三者が先行技術を根拠として特許の再審査を請求できる。IPRとの主な違いは、審査が行政審判ではなく審査部(examining corps)で行われる点、および請求後に請求人が手続きに積極的に参加できない点にある。IPRを裁量的に却下されたのち、あるいは最終書面決定(Final Written Decision)を前にしてex parte再審査を重複して申し立てる戦略が一般化していた。IP Watchdogによれば、その結果として審査官のリソースを圧迫する「異常事態」に達していた。
新手続きの具体的な内容は以下のとおりである。特許権者は、第三者の再審査請求の送達(service)から30日以内に、最大30ページの書面を提出できる。請願書(petition)や手数料は一切不要であり、追加的な書類負担なく活用できる。提出内容の範囲はSNQの有無に限定されており、35 U.S.C. § 303(a)に基づく実質的新規問題が存在しないことを論じる主張と証拠(宣言書を含む)を含めることが認められる。ただし、35 U.S.C. § 325(d)に基づく裁量的不受理を求める主張や、引用文献が審査において「新規」かどうかを争う内容は対象外とされている。
SNQとは何かを改めて整理しておくと、これは審査で考慮されなかった先行技術または情報が、従来の審査とは実質的に異なる観点から特許性に疑義を生じさせているかどうかを判断する基準である(35 U.S.C. § 303(a))。単に過去の審査で引用された文献を再提出するだけではSNQを満たさず、従来の審査と「実質的に異なる問い」が生じていなければならない。この基準は従来、USPTOが単独で判断するものであり、特許権者が審査前に異議を申し立てる仕組みは存在しなかった。今回の制度はこの手続き上の空白を埋めることを目的としている。
再審査請求人(第三者)は原則としてこの特許権者の書面に反論できない。例外的に、特許権者の書面に事実または法律上の誤った記述が含まれている場合に限り、請願書(と手数料)を提出して反論することが認められる。USPTOは特許権者の書面をSNQ判断に際して考慮したうえで、従来どおりの基準で最終的な決定を下す。
National Law Reviewの分析によれば、この手続きは「前段階の主張機会(front-end advocacy window)」として機能し、不当な請求が本格的な手続きに発展する前に排除できる可能性がある。これまで特許権者は、再審査命令(order)が下された後にのみ正式な手続き上の関与ができた。言い換えれば、再審査開始の是非を決める段階では、特許権者は事実上の傍観者であった。新制度はこの手続き上の非対称性を部分的に解消する。
本制度の実務上の影響は複数の観点から注目される。第一に、IPRの裁量的不受理強化に続く本措置は、特許権者保護を重視する方向性の一貫した延長線上にある。第二に、ex parte再審査を悪用した嫌がらせ的な無効請求の抑止効果が期待される。競合企業や特許訴訟の相手方が先行技術を根拠に連続的に再審査請求を行い、特許権者のリソースを消耗させる戦術への対抗手段となりうる。第三に、SNQとして成立しない請求を提出するリスクが明確化されることで、制度全体の質的向上につながる。
一方で批判的な見方もある。IP Watchdogは、IPRとex parte再審査の双方に対する制限強化が重なることで、不当に維持された特許に対する実務的な対抗手段が実質的に狭まることへの懸念を示している。特許有効性に異議を申し立てる立場——例えばパテント・トロールから訴えられた被告企業——から見れば、手続き上の選択肢が減ることは歓迎されない。また、IPRを利用できなかった当事者がex parte再審査を「最後の砦」として頼っていた状況が、さらに難しくなる可能性があるという指摘もある。この点については、パブリックコメントで反対意見が多数寄せられることが予想される。
実務家への示唆として、Foley & Lardnerは、特許権者が競合他社から再審査請求を受けた場合、送達直後から書面作成に着手できる体制を整えることを推奨している。30日という期間は短く、特に宣言書(declaration)の準備や技術的な先行技術の分析には専門家との迅速な連携が欠かせない。またWolf Greenfield & Sacksは、事前提出書面の内容が後続の再審査手続きにおける主張に影響を与える可能性に注意を促している。提出する内容の論理的一貫性を慎重に検討したうえで書面を作成することが求められる。
今後の注目点として、2026年5月30日のパブリックコメント締め切りに向けて、特許権者側・請求人側双方から多数の意見が寄せられることが見込まれる。最終規則の内容によっては、ex parte再審査制度の運用が大きく変わる可能性がある。特許権者にとっても、特許有効性を争う立場にある者にとっても、最終規則の動向は今後の特許戦略に直結する重要事項として注視が必要である。
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パテント探偵社 編集部
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