AI特許の101条拒絶を回避する起案戦略──「analyzing」「determining」が招くリスクと実務的対処法

コラム

AI(人工知能)関連発明の特許出願において、米国特許法第101条(35 U.S.C. § 101)に基づく特許適格性(patent eligibility)の拒絶は、出願人にとって最大の障壁の一つであり続けている。IPWatchdog LIVE 2026で開催されたパネルセッション「AI Patents Under the Microscope: Drafting and Prosecuting for the Long Game」では、Salesforce、Blueshift IP、Capital One、Ballard Spahr、Ankar AIの専門家が集い、USPTOガイダンスの変遷に左右されない、持続可能な起案(ドラフティング)戦略について議論を交わした。

パネルが指摘した構造的課題は「ガイダンスと実務のギャップ(guidance-to-practice gap)」——すなわち、USPTOが新たなメモやガイダンスを発表しても、審査官の実際の審査行動がそれに追いつくまでには相当の時間差が生じるという問題である。これは単なる運用上の遅延ではなく、出願戦略に構造的なリスクをもたらす要因である。

急速に変化するUSPTOガイダンス

AI特許の審査基準は近年、急激な変遷を遂げている。2024年2月のAI支援発明に関する発明者ガイダンス、2024年7月の特許適格性アップデート、そして2025年11月の2024年2月ガイダンスを撤回するメモと、わずか2年足らずの間に方針が大きく揺れ動いた。各ガイダンスは、それぞれの時点でのUSPTOの政策的優先事項を反映しているが、これほど短期間に方向性が変わるということは、どの時点のガイダンスに合わせて出願を最適化しても、次のサイクルで前提が崩れるリスクがあることを意味する。

この急速な変化は、特定のガイダンスに最適化された出願が、次のガイダンスサイクルで脆弱になるという構造的リスクを生んでいる。パネリストたちは、現行ガイダンスへの「コンプライアンス」ではなく、ガイダンスの変遷に耐えうる普遍的な起案哲学の必要性を強調した。

「analyzing」「determining」——精神的ステップの罠

パネルで特に具体的に議論されたのが、クレーム文言における動詞選択の問題である。「analyzing(分析する)」「determining(判定する)」といった動詞は、審査官に「精神的ステップ(mental step)」——つまり人間の思考プロセスで実行可能な抽象的アイデア——として解釈される傾向が強い。一見すると技術的に聞こえるこれらの動詞が、実はクレームの運命を左右する「トリガーワード」として機能しているのである。

Alice/Mayo判例法に基づく2段階テストにおいて、ステップ1で「抽象的アイデアに向けられている」と認定されると、ステップ2で「著しく多いもの(significantly more)」の立証が求められる。「analyzing」や「determining」を中心に構築されたクレームは、ステップ1の段階で審査官のフレーミングを「抽象的」方向に固定してしまい、その後の反論を著しく困難にする。

パネリストたちは、こうした動詞の選択は最初のオフィスアクション(拒絶理由通知)が発行される前の段階で審査のフレーミングを決定づけるため、出願時の文言選択が極めて重要であると指摘した。一度「精神的ステップ」として枠組みが設定されてしまうと、応答段階でその認定を覆すことは非常に難しい。つまり、101条対策の最大の鍵は、拒絶への応答戦略ではなく、起案段階での予防的文言設計にあるということである。

8つの実務的起案戦略

パネルでは、以下の起案戦略が提示された。いずれも、特定のガイダンスへの一時的な適合ではなく、ガイダンスの変化に耐えうる構造的堅牢性を備えることを目指している。

1. 逆転型コンティニュエーション戦略。従来の「広いクレームから狭く」ではなく、最も具体的で防御力の高いクレームを最初に出願し、その後のコンティニュエーション出願(continuation application)で保護範囲を段階的に広げる手法。具体的なクレームは101条の障壁を突破しやすく、先行して権利を確保した上で、継続出願で範囲を拡張する方が戦略的に合理的である。

2. 層状のフォールバックポジションを備えた拡張明細書。明細書(specification)に複数層の代替的実施形態を詳細に記載し、ガイダンス変更時にも柔軟にクレームを再構成できる基盤を用意する。一つの実施形態に依存した明細書は、ガイダンス変更に脆弱であるのに対し、複数の技術的バリエーションを網羅的に記載しておけば、どのようなガイダンス環境にも対応できるクレーム補正が可能になる。

3. 既存モデルの「利用」と「改良」の明確な区別。汎用的な機械学習モデルをそのまま適用しただけの出願と、モデル自体に技術的改良を加えた出願を明確に区分する。SalesforceのJason Harrier氏は、発明者に対して「そのシステムが既存モデルの単なる利用ではなく、何を実際に改善しているのか」を問いただすことの重要性を強調した。この区別は、101条分析において「抽象的アイデア」と「技術的改良」の境界線を画定する上で決定的に重要である。

4. 発明のストーリーから出発する起案プロセス。ガイダンスの要件から逆算するのではなく、発明者が実際に行ったこと、それが既存技術に対してなぜ真の改良であるのかという「発明のストーリー」を明確にし、そこからクレームを構築する。ガイダンス準拠を出発点にすると、ガイダンスが変わった時点でクレームの根拠が失われるが、技術的改良の本質から出発すれば、どのようなガイダンス環境でも防御力を維持できる。

5. 臨床的インテーク・プロセス。出願前の段階で、発明者の実際の技術的貢献を体系的に特定する「臨床的インテーク」プロセスを導入する。特に、AIツールが発明プロセスで使用された場合、どこまでが人間の知的貢献であり、どこからがAIによる自動化なのかを早期に切り分ける。Ballard SpahrのJonathan Hummel氏は、AIツール使用時の弁護士との早期協働の重要性を指摘し、発明の範囲と出願戦略を初期段階で明確にすることが、後工程での手戻りを防ぐと述べた。

6. AI委任の選択的活用。明細書の機械的な作業(先行技術調査の整理等)にはAIツールを活用しつつ、発明のストーリーの核心部分は人間の判断に委ねるという選択的アプローチ。AIツールの能力と限界を理解した上で、適材適所の使い分けが求められる。

7. 意図的な用語選択による審査フレーミングの制御。前述の「analyzing」「determining」を避け、技術的プロセスを具体的に記述する用語を選択することで、審査官が「精神的ステップ」としてではなく「技術的改良」として認識するよう誘導する。たとえば、「データを分析する」ではなく「ニューラルネットワークの出力層において特徴量ベクトルを比較照合する」といった具体的な記述に置き換えることで、審査官の認知フレームを技術的方向に誘導する。

8. 出願判断の厳格化。すべてのAI関連発明を出願するのではなく、101条の障壁を突破できる見込みのある案件を選別し、質の高い出願に集中する。出願コストと成功確率のバランスを冷静に評価し、防御力の低い出願を量産するよりも、堅牢な少数の出願に注力する方が、ポートフォリオ全体の価値を高める。

中国語先行技術の台頭

パネルではさらに、AI分野の関連先行技術の80〜90%が中国語文献に移行しているという指摘もなされた。これは驚くべき数字であり、先行技術調査の在り方にも根本的な変化を迫るものである。英語圏の先行技術のみをサーチしていては、重要な先行技術を見逃すリスクが高まっている。中国語文献のサーチ能力が出願戦略の成否を左右する時代に入りつつあり、CNIPA(中国国家知識産権局)のデータベースへのアクセスと分析能力の強化が急務となっている。

日本企業への示唆

本パネルの議論は米国での出願を前提としているが、日本企業にとっても重要な示唆を含んでいる。日本企業が米国でAI関連特許を出願する場合、日本語の明細書を英語に翻訳する過程で、「analyzing」や「determining」といった精神的ステップを想起させる動詞が不用意に使用されるリスクがある。翻訳段階での用語選択にも十分な注意が必要である。

また、日本の特許庁(JPO)における審査基準は米国とは異なるものの、AI関連発明の特許適格性に関する議論は世界的に広がっている。米国での起案戦略の知見を日本出願にも応用し、明細書の技術的記述の具体性を高めることは、グローバルなポートフォリオ戦略の強化につながるだろう。日本の実務者にとっては、米国の101条問題を「対岸の火事」ではなく、自社の出願品質を向上させるための参考事例として活用することが求められる。

「次のガイダンスサイクル」を生き抜く出願とは

本パネルの核心的メッセージは、現行のガイダンスに一時的に適合する出願を目指すのではなく、ガイダンスがどのように変化しても防御力を維持できる出願を目指すべきだ、という点にある。そのためには、技術的改良の本質を明確に記述し、抽象的な動詞に依存しないクレーム文言を選択し、明細書に十分な代替的実施形態を盛り込むことが必要である。

AI特許の審査環境が流動的である以上、出願戦略もまた、変化に対応できる柔軟性を内包していなければならない。今日のガイダンスに最適化された出願ではなく、明日のガイダンスにも耐えうる出願——それが、AI特許の長期的な価値を最大化するための唯一の道である。

この記事について

パテント探偵社 編集部

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