米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は2026年4月2日、共同発明者の記載漏れを理由として2件の特許を無効とする先例的判決(precedential decision)を下した。Fortress Iron LP v. Digger Specialties Inc.事件において、Lourie判事が執筆した判決は、特許法上の発明者記載の重要性を改めて強調し、企業間コラボレーションにおける発明者管理のリスクを浮き彫りにした。
本件は「ファースト・インプレッション(first impression)」——すなわち、連邦巡回控訴裁判所として初めて判断する法的論点を含む事案であり、今後の実務に広範な影響を及ぼす可能性がある。特許ポートフォリオを保有するすべての企業にとって、発明者記載の正確性がいかに重要かを示す警鐘的事例といえる。
事案の概要
問題となったのは、Fortress Iron LPが保有する米国特許第9,790,707号および米国特許第10,883,290号(いずれも「Vertical Cable Rail Barrier」——垂直ケーブルレール柵に関する特許)である。
両特許の最終デザインは、Fortressの従業員2名に加え、品質管理委託先であるQuan Zhou Yoddex Building Material Co., Ltd(以下YD社)の従業員2名(Hua-Ping HuangおよびAlfonso Lin)が共同で着想したものであった。すなわち、Fortress社の内部人員だけでなく、外部協力会社の担当者も発明に実質的に貢献していたにもかかわらず、当初の特許出願には外部協力者の名前が記載されていなかったのである。
Fortressは2021年1月にDigger Specialties Inc.を特許侵害で提訴したが、訴訟過程でDiggerがYD社従業員2名の発明への貢献を発見した。Fortressは35 U.S.C. § 256(a)に基づき両名を共同発明者として追加する手続きを試みた。Linについては追加に成功したが、Huangの所在が判明せず、法的に必要な通知を送達できなかったため追加できなかった。この「所在不明」という事実上の障害が、最終的に特許全体の運命を左右することになる。
CAFCの判断——4つの重要な法的判断
CAFCは地裁の判断を支持し、IPWatchdogの報道によれば、以下の重要な法的判断を示した。
第1に、Huangは「利害関係者(party concerned)」に該当する。Fortressは、Huangを共同発明者として追加することは本人に不利益をもたらさないため、§ 256(b)に定める「利害関係者」には当たらないと主張した。しかしCAFCは、「発明者は特許プロセスにおいて中心的な役割を占める。すべてはそこから始まるのであり、たとえ後に雇用者等に権利を譲渡するとしても、法的枠組みにおける発明者への明示的な言及を軽んじることはできない」と判示し、この主張を退けた。裁判所は「利害関係者」を「経済的利害が悪影響を受ける者」と狭く解釈することは条文の書き換えに等しいとも指摘した。
第2に、手続的保護は救済の前提条件であり、単なる形式ではない。CAFCは「§ 256(b)はこれらの手続的保護を救済の前提条件としており、単なる形式的要件ではない」と述べ、所在不明であっても通知・聴聞の機会の付与が法的要件であることを明確にした。Fortressは、Huangの所在が分からないという実務的困難を理由に要件の免除を求めたが、裁判所はこの主張も退けた。
第3に、訂正不能な発明者記載の誤りは特許を無効にする。CAFCは、§ 256(b)が「発明者の記載漏れ等の誤りは、訂正可能であれば(if it can be corrected)特許を無効としない」と規定していることから、その「必然的かつ反対の含意(necessary and opposite implication)」として、訂正不能な場合には特許は無効になると判断した。これは条文の論理的帰結であるが、明確にこの点を判示した先例として大きな意味を持つ。
第4に、「Whoever」は全発明者の記載を要求する。35 U.S.C. § 101の「Whoever invents or discovers」という文言について、CAFCは「§ 101と§ 100(f)を§ 256(b)と併せ読めば、発明に複数の発明者がいる場合、全員が特許に記載されなければならないことが想定されている。『Whoever』は全員に満たないことを意味しない」と判示した。Fortressが主張した「permissive(許容的)」な解釈、すなわち真の発明者が1名でも記載されていれば足りるという見解は、§ 256(b)の救済規定を無意味にするとして退けられた。
企業間コラボレーションへの警鐘
本判決は、外部パートナーとの共同開発において発明者管理を怠ることのリスクを、極めて明確な形で示している。Fortressのケースでは、委託先の品質管理担当者が発明プロセスに実質的に貢献していたにもかかわらず、当初の出願時に発明者として記載されていなかった。
特に注目すべきは、Fortressが訂正手続きを試みたにもかかわらず、Huangの所在不明という事実上の障害によって訂正が不可能となり、結果として特許全体が無効となった点である。これは、発明者の連絡先情報の管理が特許の有効性そのものに直結することを意味する。訂正の意思があっても、手続的要件を充足できなければ特許は救済されないのである。
この問題は、単一のサプライヤーとの関係に限らず、大学との共同研究、コンサルタントの起用、オープンイノベーション・プログラムなど、あらゆる形態の外部コラボレーションに当てはまる。共同開発のすべての段階で、誰が発明の着想(conception)に貢献したかを正確に記録・管理する体制が不可欠となる。
M&A・ライセンスへの波及リスク
本判決の影響は、個別の訴訟事案にとどまらない。企業買収(M&A)においてデューデリジェンス(due diligence)の対象となる特許ポートフォリオについて、発明者記載の正確性がこれまで以上に厳格に審査される可能性がある。買収対象企業が外部と共同開発した特許について、すべての共同発明者が適切に記載されているかの確認は、今後のデューデリジェンスの標準項目となるだろう。
また、ライセンス契約においても、ライセンサーが保有する特許の発明者記載が正確であることの表明保証(representation and warranty)条項の重要性が増すことになる。ライセンシーの立場からは、ライセンス対象特許に発明者記載の瑕疵がないことを契約上担保する必要性が高まった。
大企業が多数の外部研究機関やサプライヤーと共同開発を行う場合、すべての共同発明者を適時に特定・記載する体制の構築は、もはやベストプラクティスではなく法的な必須要件というべきである。
実務上の対応策
本判決を受け、以下の実務的対応が求められる。第一に、既存の特許ポートフォリオについて、外部協力者が発明に貢献した可能性がある案件を洗い出し、発明者記載の正確性を検証すること(発明者オーディット)。特に、共同開発契約の下で取得された特許については優先的に確認が必要である。
第二に、共同開発契約において、発明者の特定・記載に関する手続きを明文化し、連絡先情報の継続的な更新を義務付けること。外部協力者との関係が終了した後も、一定期間は連絡先を維持・更新する仕組みが求められる。
第三に、出願前の発明者認定プロセスを厳格化し、着想(conception)への貢献を適切に評価する体制を整えること。形式的な確認ではなく、開発プロジェクトの各段階で誰がどのような知的貢献を行ったかを記録するラボノートやプロジェクト記録の整備が重要となる。
CAFCが「発明者は特許プロセスにおいて中心的な役割を占める」と改めて強調したことを、すべての特許実務者は重く受け止めるべきである。
この記事について
パテント探偵社 編集部
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