米国特許商標庁(USPTO)は2026年3月12日、コンピュータ生成インターフェースやアイコンに関するデザイン特許(意匠特許)の審査ガイダンスを更新し、出願時の要件を大幅に緩和した。これまで必須とされてきた「ディスプレイパネルまたはその一部を実線または破線で描写する」という図面要件が撤廃され、タイトルとクレームで製造物品(article of manufacture)が適切に特定されていれば出願が認められることになる。
この変更は、2020年に開始された「製造物品」要件に関するパブリックコメント募集から始まった政策転換の集大成であり、デジタル時代のデザイン保護に関する実務を根本から変える可能性がある。
3つの実務的変更点
連邦官報に3月13日付で公表された新ガイダンス(正式名称:「Supplemental Guidance for Examination of Design Patent Applications Related to Computer-Generated Interfaces and Icons」、Docket No. PTO-P-2026-0133)は、以下の3つの実務的変更を含んでいる。
第1に、図面要件の撤廃。これまでMPEP § 1504.01(a)で規定されていた、GUI(グラフィカルユーザーインターフェース)やアイコン関連の出願図面にディスプレイパネルを実線または破線で描くという要件が削除された。タイトルとクレームが製造物品を適切に特定していれば足りる。これは実質的に、デジタルデザインを物理的なハードウェアから「解き放つ(untether)」ものであり、Patently-Oの記事でも「Untethered」という表現で報じられている。出願人にとっては、図面作成の負担軽減だけでなく、保護対象のデザインを特定のデバイス形態に縛られずに権利化できるという本質的なメリットがある。
第2に、クレーム表現の柔軟化。2023年時点では認められていなかった前置詞「for」を使ったクレーム表現(例:「icon for display screen」「projected interface for computer」)が、35 U.S.C. § 171に基づく製造物品の記述として認められるようになった。旧来の「The ornamental design for a display screen or a portion thereof with a graphical user interface」という冗長な表現に代えて、「The ornamental design for a graphical user interface for a computer」や、単に「Computer icon」といった簡潔なクレームが可能になる。新ガイダンスは出願人に「少なくとも2つの追加的な自由度」を与えるものであり、クレーム構成の戦略的選択肢が大きく広がった。
第3に、投影型・ホログラフィック・XRインターフェースへの拡張。デザイン特許の適格性が、従来の画面表示に加えて、投影インターフェース(projected interface)、ホログラフィックインターフェース、そしてVR(仮想現実)・AR(拡張現実)環境におけるデザインにまで明示的に拡大された。これは、物理的なスクリーンを持たないデバイスやサービスにおけるユーザー体験のデザインを、初めて正面から保護対象として認めたものである。
GUI デザイン特許の出願動向
Patently-Oの分析によれば、2011年から2025年にかけて合計27,660件のGUI関連デザイン特許が発行されている。2025年には2,787件が発行され、デザイン特許全体の約5%を占める。ピークは2016年の3,111件であった。注目すべきは、物理ディスプレイの描写要件という障壁が存在する中でもこれだけの出願量があったという事実である。要件が撤廃された今、出願件数はさらに増加する可能性が高い。
特に、これまで要件の厳格さゆえに出願を見送られてきたVR・ARデバイス向けのインターフェースデザインや、プロジェクション型ディスプレイのUI要素については、出願の「フラッドゲート」が開くことが予想される。
Apple・Google・Metaの出願戦略への影響
今回の要件緩和は、デジタルインターフェースを主力製品とするテクノロジー大手にとって、出願戦略の見直しを迫る変化となる。
AppleはiPhone・iPad・Mac向けのUI要素に加え、Vision Proの空間コンピューティングインターフェースを急速に展開している。物理ディスプレイに紐づかない投影型・空間型のUI要素が正式にデザイン特許の保護対象となったことで、Vision Proのインタラクションデザインに対する権利取得が容易になる。Appleは従来からデザイン特許の積極的な出願者であり、この変更は同社の既存戦略をさらに加速させるだろう。
GoogleはAndroid OS、Chrome、各種クラウドサービスのインターフェースに膨大なデザイン資産を持つ。クレーム表現の柔軟化により、マテリアルデザイン(Material Design)のコンポーネントやアイコンセットについて、より効率的な出願が可能になる。また、Google Glassの後継となるAR関連製品のUI要素についても、保護の道が開けた。
Metaはメタバース戦略の中核としてVR・ARインターフェースを開発しており、Quest シリーズのUI要素やHorizon Worldsの仮想空間インターフェースが新たな保護対象として注目される。メタバース空間における3Dインターフェースのデザイン保護は、今後の競争優位を左右する重要な知財戦略となる可能性がある。
AI生成インターフェースと意匠保護の新たな論点
今回のガイダンス変更は、AI(人工知能)が生成するUIデザインの保護という新たな論点とも密接に関連する。生成AIによるインターフェースデザインの自動生成が実用化されつつある中、物理的なディスプレイに依存しないデザイン保護の枠組みは、AI生成デザインの権利化においても重要な基盤となる。AIが大量のUIバリエーションを自動生成し、その中から最適なデザインを選択するというワークフローが一般化すれば、デザイン特許の出願量と出願戦略は根本的に変わるだろう。
ただし、AI生成デザインの発明者適格性(inventorship)については、USPTOが2025年に公表した改訂ガイダンスでAI支援発明に対する人間の関与要件が示されており、デザイン特許においても同様の論点が今後浮上する可能性がある。AIツールが着想・創作プロセスのどこまでを担当したかによって、出願の可否が左右される時代が来るかもしれない。
実務上のポイント
デザイン特許の実務者にとって、今回の変更への対応は急務である。新ガイダンスは即時適用されるため、現在出願準備中の案件や、継続出願(continuation application)の戦略にも影響する。特に、これまで物理ディスプレイの描写要件のために出願を見送っていたVR・AR関連のデザインについては、改めて出願の可否を検討する価値がある。
また、新たに認められたクレーム表現を活用することで、保護範囲の最適化を図ることも可能である。「for a display screen」から「for a computer」へとクレーム文言を広げることで、特定のデバイス形態に限定されない、より広いデザイン権を確保できる可能性がある。今後の審査実務がどのように展開するかを注視しつつ、積極的な権利取得を検討すべきタイミングである。
この記事について
パテント探偵社 編集部
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