欧州特許庁(EPO)は2026年4月1日、2026年版審査ガイドライン(Guidelines for Examination under the EPC)を施行した。今回の改訂はAI関連発明の取り扱い方針の明確化、カラー図面の処理手続き整備、PACE(Patent Prosecution Highway accelerated examination)プログラム下の加速審査廃止など、出願人・代理人の実務に直接影響する複数の変更を含んでいる。
AI利用に関しては、EPO内部での人工知能ツール使用に関する新たな指針が設けられた。これはAIが審査プロセスにおいてどのように活用されるか、また審査官がAI生成コンテンツの取り扱いについてどのような基準で判断するかを整理したものである。生成AI技術の急速な普及を受け、主要特許庁がその審査プロセスへの組み込み方針を明文化する動きが加速しており、EPOの今回の対応はその流れに沿ったものだ。
カラー図面の取り扱いについては、欧州特許条約(EPC)規則49(11)の改正に対応した新手続きが設けられた。従来、特許出願における図面は原則として白黒で提出する必要があったが、今回の改訂ではカラー図面が「明確かつ十分な開示」のために必要不可欠である場合の申請手続きが明確化された。技術分野によっては、色彩情報が発明の理解に不可欠なケースがあり、この整備は生命科学・医療画像・表示技術分野の出願人にとって実務上の利便性向上につながる。
加速審査に関しては、PACEプログラム下での加速サーチ(Accelerated Search)が廃止された。PACEは申請者が審査の迅速化を求める制度であるが、今回の変更によりサーチ段階での加速は対象外となった。引き続き審査段階での加速申請は可能であるが、この変更は手続きタイムラインを見越した戦略立案に影響を与える可能性がある。
さらに今回の改訂では、さらなる医薬用途クレーム(Further Medical Use Claims)に係る開示充分性(Sufficiency of Disclosure)について新たな章が設けられた。これは製薬・バイオテクノロジー分野における特許実務において長年論点となってきた領域で、審査基準の整理によって出願人はより予見可能な形でクレームを構成できるようになる。
法的根拠となる審判大部審決についても、今回のガイドラインに取り込まれた。G 1/23およびG 1/24は、それぞれ手続きや明細書の解釈に関わる重要な先例であり、これらがガイドラインの本文に明示的に組み込まれたことで、審査における適用の一貫性が高まると見られる。
また、今回の2026年版ガイドラインは、従来のガイドに含まれていた内容を欧州特許条約(EPC)ガイドラインおよびPCT-EPOガイドラインに統合する再編も含んでいる。これにより出願人は、手続きに関する参照文書の構造がより一元化され、検索・参照の効率が向上する。EPOはガイドラインの公開と同時に、2026年4月3日を期限とするパブリックコメント募集も実施した。
EPOの審査ガイドラインは毎年改訂され、法改正・審判大部審決・実務上の必要性に応じた変更が反映される。今年の改訂は特に、AIの台頭と欧州特許実務の現代化という二つの文脈において注目される内容となった。日本・米国・韓国など主要特許庁との協調も含め、AIを用いた先行技術調査や審査プロセスの効率化に向けた制度整備が各国で進んでいる中、EPOの今回の対応は国際的な潮流に位置付けられる。
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パテント探偵社 編集部
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