2026年第1四半期、米国特許審判部(PTAB)に対する審判申請件数が前年同期比で64.2%減少し、131件という歴史的低水準を記録した。Unified Patentsが2026年4月14日に公表した「特許争訟報告:2026年Q1」がこの数字を明らかにした。なかでも査定系審判(IPR:Inter Partes Review)の申請件数は66.3%と最大の落ち込みを示し、PTABが特許無効化手段として機能してきた10年以上の歴史の中で、最も低い水準となった。
この急減の主因は、2025年に始まった裁量的棄却(Discretionary Denial)の急増にある。PTABは近年、既に地裁訴訟が係属している案件や、申請書の記載要件を満たさないと判断した案件について、制度趣旨の観点から審判を開始しない裁量的棄却を積極的に活用するようになった。このことが申請側の萎縮効果を生み、実質的にIPR件数を押し下げた。
一方で、申請者が択んだ代替手段として存在感を増したのが職権再審査(Ex Parte Reexamination)である。同報告によれば、2026年第1四半期の職権再審査申請件数は前年同期比で157.1%増加し、2025年第4四半期に記録した全時代最高件数に次ぐ、歴史上2番目に多い水準となった。IPRとの振り替え現象が明確に確認された形だ。査定後レビュー(PGR:Post-Grant Review)の申請件数も26.3%減少した。
地方裁判所への提訴件数もこの期間に21.6%減少した。2026年第1四半期に最も多くの事件を受理したのはテキサス州東部地区連邦地方裁判所(E.D.Tex.)とテキサス州西部地区(W.D.Tex.)で、両地区を合わせると全特許訴訟事件の37%超を占めた。NPE(非実施主体、いわゆるパテント・トロール)訴訟に限ると、この比率は57%を超えている。
NPEが訴訟市場で占める比率は引き続き高水準にある。同報告によれば、2026年第1四半期における地方裁判所への特許訴訟全体のうち53.2%がNPEによるものであった。ハイテク分野(ソフトウェア・ハードウェア・ネットワーク関連技術)に絞ると、その割合は90.3%に達する。上位10社の地裁提訴原告のうち、8社がNPEであった。
PTABにおける制度運用の変化は、機関決定率(Institution Rate)にも顕著な影響を与えている。2026年第1四半期において、NPEが特許権者である申請案件に対する機関決定率は24.6%であった。これに対して、実施主体(Operating Company)が特許権者である案件の機関決定率は約40%前後であり、両者の差は15%超に拡大している。2025年第4四半期時点では、NPE案件が33.6%、実施主体案件が53.2%であったことと比較すると、NPEに対する機関決定率の低下傾向が加速していることがわかる。
PTAB上位申請者を見ると、2026年第1四半期においてGoogleが最多の申請件数を記録した。特許権者側ではBulletproof Property Management LLCというNPEが上位に立ち、上位10社のうち6社がNPEであった。地方裁判所の被告上位では、Appleがスケジュールリスト(著作権侵害関連の定型訴訟)以外の被告として最多に名を連ねた。
今回の統計が示す構造的変化は、IP実務家にとって複数の含意を持つ。第一に、PTABを経由した特許無効化戦略の難度が上昇している。裁量的棄却の増加は、IPR申請が受理されるかどうかの予見可能性を低下させており、実務上の費用対効果の再評価を迫っている。第二に、職権再審査への回帰が本格化している。職権再審査はIPRより手続きが異なり、特許権者に対して一定の応答機会が与えられるが、申請人側が自らの立場をより後ろに置いたプロセスとなる。第三に、地裁訴訟件数の減少はIPR件数の減少と必ずしも連動しているとは言えず、特許紛争の総量が減っているというより、紛争解決の手段が移行していることを示唆している。
Unified Patentsのデータは2012年1月1日から2026年3月31日までの地方裁判所、PTAB、再審査、UPC(欧州統一特許裁判所)の事件を対象としており、IP訴訟動向の包括的な把握に活用されている。今回の四半期報告は、2025年以降に進行してきたPTABの制度的転換が2026年においても継続・加速していることを数字で裏付けた。
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パテント探偵社 編集部
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