米国連邦巡回控訴裁判所(CAFC)は2026年4月14日、VLSI Technology LLC対Intel Corporation事件(事件番号24-1772)において先例的判決を下し、地裁による方法クレームおよび装置クレームの非侵害判決を破棄した。ムーア首席判事が執筆したこの判決は、特許侵害における域外適用(extraterritoriality)の解釈と、均等論(doctrine of equivalents)の適用範囲に関して実務上重要な基準を示した。
今回の訴訟は、半導体チップの電圧・電源管理に関するVLSIの特許を対象としている。VLSIはFortress Investmentが支援するパテント・ホールディング会社であり、Intelに対して複数の特許侵害訴訟を提起してきた経緯がある。2021年には同一当事者間の別訴訟でテキサス州の陪審員がIntelに対して約21.75億ドルの損害賠償支払いを命じたが、その事件は連邦巡回控訴裁がIPR(当事者系再審査)における特許無効判断を受けて扱った別文脈のものであった。今回の24-1772事件はその延長上にある別の特許クレーム群についての争いである。
地裁はIntelの申立てを認め、方法クレームについて域外適用を理由とした略式判決(summary judgment)で非侵害と判断していた。争点の核心は、Intelが訴訟前に「米国との接点(U.S. nexus)」があることを認める合意(stipulation)をしていたことの意味である。CAFCはこの合意を契約として解釈し、de novoの審査基準を適用した上で、「域外性に関する合意は、方法クレームの非地理的・技術的要件の充足を証明するVLSIの義務を消滅させるものではない」と判断し、地裁の非侵害判決を破棄した。
装置クレームに関しては、「測定(measuring)」に関する限定事項をどこで実施するかという点についてIntelが申立てた略式判決の申立てを、CAFCは証拠上の事実争点(genuine dispute of material fact)の存在を理由に退けた。VLSIは、ATE(自動テスト装置)がなければ問題の測定機能を実施できないとの証拠を提示しており、CAFCはこの証拠だけで略式判決の申立てを退けるのに十分と判断した。さらに、VLSIは装置クレーム10とその従属クレームについて均等論侵害の主張もしており、地裁が独立して下したこれらの均等論に係る非侵害判決についても、CAFCは争点の整理とともに差し戻しの対象とした。
本判決の実務的意義は複数の点に及ぶ。第一に、訴訟前の合意(stipulation)の解釈について、CAFCが契約法上の解釈原則を適用してde novoで審査するとした点は、特許訴訟における合意の文言管理の重要性を改めて示している。被告側が域外適用の争点を回避するために米国との接点を認める合意をする際は、その範囲と条件を精緻に設計しなければ、別の法的義務を生じさせるリスクがあることが確認された。
第二に、装置クレームの均等論についてCAFCが詳細な分析を行ったことにより、「合理的に侵害できる能力(reasonably capable of performing the claimed functions)」の評価において、テスト装置の役割が証拠として有効に機能しうることが示された。これは半導体製造・チップテストに関する特許訴訟において、製造工程とテスト工程の両方を侵害証拠として総合的に提示することの重要性を裏付ける。
第三に、先例的判決(precedential opinion)として位置づけられたことで、本判決の基準は今後の連邦地裁・CAFC事件において引用される可能性が高い。特に、テクノロジー・半導体関連の特許訴訟で域外性を争点とする場面では、本件のムーア首席判事の解析が指導的先例となる。
VLSI対Intel訴訟全体を俯瞰すると、この訴訟はFortressが支援するパテント・アサーション・エンティティ(PAE)対大手半導体企業という構図において、最大規模の係争の一つであり続けている。IntelはIPRや地裁での無効申立てなど多様な防御戦略を展開しており、今回の差し戻しにより訴訟は地裁に戻り、陪審審理に向けた手続きが再開される可能性がある。最終的な侵害認定と損害賠償の規模は今後の事実審で決まるが、今回の差し戻しはVLSIにとって少なくとも複数の法的理論を復活させる契機となった。
日本の半導体・電子部品メーカーの観点からも、本判決は参照に値する。欧米での特許訴訟において、製品のテスト工程・測定機能が侵害の構成要件と関係する場合は、ATE等のテスト装置との関係を侵害論で丁寧に整理しておく必要性が浮き彫りとなった。また、訴訟前の合意内容の設計についても、均等論侵害のリスクとの関係で慎重な検討が求められる。
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パテント探偵社 編集部
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