米国特許審判部(Patent Trial and Appeal Board、PTAB)の係属件数が、委員会設立以来初めて2,000件を割り込んだ。USPTOが2026年4月に公表したデータによれば、2026年3月31日時点での係属件数は1,866件となり、ピーク時の2012年度に記録した約27,000件から劇的に縮小した。審理期間も2025年5月時点の平均28か月から約9か月に短縮している。USPTO代行副首席審判官ステイシー・ホワイト氏が明らかにした。
スクワイアーズ長官就任後のIPR申立件数の急落
ジョン・スクワイアーズ USPTO長官が2024年末に就任して以降、当事者系レビュー(IPR)の申立採択率が急低下している。2024年10月時点で約65%だった採択率は、2026年2月には約37%にまで落ち込み、約17か月で43%の減少を記録した。
2026年第1四半期(Q1)のIPR申立件数は前年同期比66.3%減の131件と過去最低水準を更新した。AIA(米国発明法)手続全体(IPR・PGR・CBMを含む)の申立件数も同64.2%減となり、2026年3月時点の係属申立件数は815件と12年ぶりの低水準に落ち込んでいる。
背景には、長官による裁量的却下(discretionary denial)の積極的な活用がある。4月の具体的事例として、スクワイアーズ長官はTianma Microelectronics Co., Ltd.対LG Display Co., Ltd.事件(IPR2025-01579)において「外国政府はAIA手続の申立人になり得ない」と判断し、申立を却下した。また、Cisco Systems, Inc.対Dynamic Mesh Networks, Inc.事件(IPR2025-01303)では、特許権者が法定免責(statutory disclaimer)を提出したことを理由に却下しており、「このような状況での審理開始拒否はUSPTOの資源の効率的利用に資する」と述べた。
ex parte再審査への急速なシフト
IPRが後退する中、ex parte再審査(ex parte reexamination)の利用が急増している。2026年Q1のex parte再審査申請件数は前年同期比157.1%増に達した。2連続の四半期でex parte再審査申請件数がIPR申立件数を上回っており、2025年通年の件数の約3分の1に相当する数がすでにQ1のみで申請されている。
この急増を受け、USPTOは2026年4月1日付けで「申立前回答(pre-order)」手続を新設した。特許権者は、再審査申請書の送達から30日以内に、費用不要の最大30ページの書面を提出し、重大な新たな特許性の疑問(Substantial New Question of patentability、SNQ)の不成立を主張できる仕組みだ。
ただし、複数の専門家からはex parte再審査の乱用を懸念する声も上がっている。同一特許に対して繰り返し再審査を請求する「シリアルチャレンジ」が特許権者へのハラスメント的手段として機能するリスクがあり、USPTOによる追加的な規則整備を求める意見がある。
地方裁判所への波及
Unified Patentsが2026年4月14日に公表した「Patent Dispute Report: Q1 2026」によれば、Q1の地方裁判所における特許訴訟新規提訴も前年同期比21.6%減となった。IPR改革の影響が、連邦地裁での特許争訟の動向にも波及していることが示唆される。
スクワイアーズ長官は2026年3月25日、下院司法委員会の知財・AI・インターネット小委員会に出席し、AIを活用した特許・商標審査によるバックログ解消に取り組む方針を改めて表明した。
IPR制度は2012年のAIA施行後、特許有効性を争う主要な場として機能してきた。今回の申立件数の急落はIPR制度の見直し論議を再燃させる可能性があり、米国の特許無効化ルートの地殻変動として実務家の注目を集めている。
この記事について
パテント探偵社 編集部
知的財産の世界で起きている出来事を、ジャーナリズムの手法で報道・分析する独立メディア。特許番号・法的根拠・当事者名を正確に記述しながら、専門家以外にも読みやすい記事を届けています。掲載内容は法的アドバイスではありません。


コメント