米国特許商標庁(USPTO)のJohn A. Squires長官(第60代、2025年9月22日就任)は2025年12月4日、AI関連発明の特許適格性(35 U.S.C. §101)に関する2本のメモランダムを発出し、審査実務の方針を大きく転換させた。Biden政権期に策定されたAI発明関連の指針を実質的に見直し、「技術的改善」(technical improvement)を基軸とする新たな判断枠組みを明確化するとともに、SMED(Subject Matter Eligibility Declaration: 主題適格性宣言書)制度を正式に位置づけた。
SMED制度の正式化
SMEDとは、37 C.F.R. § 1.132に基づく任意の宣言書であり、出願人が§101拒絶を克服するために客観的証拠や専門家の証言を提出できる手続的手段である。2本のメモランダムのうち1本は特許審査部門(Patent Examining Corps)向けで審査官によるSMED評価の指針を示し、もう1本は出願人・実務家向けでSMED作成のベストプラクティスを提供している。
SMEDは新たな手続きを創設するものではなく、既存の規則の下での証拠提出の選択肢を明文化・体系化したものである。出願人は従来もRule 132宣言書を§101拒絶に対して使用可能であったが、実務上はあまり活用されていなかった。今回のガイダンスにより、SMEDの利用が公式に推奨される形となった。
「技術的改善」基準の明文化
今回のガイダンスの核心は、AI関連発明の適格性判断において「技術的改善」の存在を重視する姿勢にある。改訂されたMPEP(Manual of Patent Examining Procedure)は、審査官に対し「関連する技術分野への改善」(improvement to other technology or technical field)としての実用的応用(practical application)を積極的に探求するよう指示している。明細書がAI・機械学習モデル自体またはそれに関連する技術分野をどのように改善するかを具体的に記載していれば、§101拒絶を克服しやすくなる。
Ex parte Desjardins判決との関係
今回のSMEDメモランダムは、Squires長官自身が3名の合議体の一員として参加したEx parte Desjardinsの先例的決定を基盤としている。同決定では、PTAB(特許審判部)が独自に(sua sponte)提起した§101拒絶を取り消しており、審査官の適格性判断に対する抑制的なアプローチを示した。
Biden政権期ガイダンスからの転換
前政権下のUSPTOは2024年にAI関連発明の発明者要件(inventorship guidance)に関するガイダンスを公表していたが、§101適格性に関しては保守的な姿勢を維持していた。Squires長官は就任後、AI特許に対するより柔軟な審査方針を打ち出しており、今回のガイダンスはその集大成と位置づけられる。2025年11月のAIPLA年次総会では、さらなるガイダンス更新を予告しており、AI発明に関する§101審査の枠組みは今後も進化する見通しである。
実務への影響
AI関連特許の出願を検討する企業・実務家にとって、今回のガイダンスは以下の点で大きな意味を持つ。第一に、SMED制度の正式化により§101拒絶に対する反論手段が強化された。第二に、「技術的改善」の記載が明細書作成の戦略的要素として一層重要になった。第三に、2026年以降のAI特許審査は従来より柔軟になると予想される。AI関連技術の出願件数が急増する中、この方針転換はグローバルなAI知財戦略にも波及する可能性がある。
この記事について
パテント探偵社 編集部
知的財産の世界で起きている出来事を、ジャーナリズムの手法で報道・分析する独立メディア。特許番号・法的根拠・当事者名を正確に記述しながら、専門家以外にも読みやすい記事を届けています。掲載内容は法的アドバイスではありません。

コメント