連邦巡回区控訴裁判所、A.L.M. Holding対Zydexで「サブライセンス拒否権・ロイヤリティ・提訴権の留保はArticle III適格を満たす」と判断。地方裁判所の却下を破棄

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米連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は2026年5月19日、A.L.M. Holding Company他対Zydex Industries Private Ltd.他事件(No. 25-1317)について、Chen裁判官執筆の先例的意見を発出した。CAFCは、特許権者が独占的ライセンスを付与した後も、ライセンシーに対するサブライセンス拒否権・ロイヤリティ取得権・自ら提訴する権利を留保していれば、Article III(憲法上の当事者適格)の要件を満たす「排他的権利」を保持していると判断し、デラウェア地区連邦地方裁判所による却下判決を破棄して差し戻した。本意見はあわせて、米国特許法281条に基づく法定当事者適格(statutory standing)と憲法上の当事者適格の関係を整理しており、ライセンス契約を介在させたパテント・ホルダーの提訴適格をめぐる議論に明示的な指針を与えるものとして注目される。

事案は、A.L.M. Holding Companyとパートナーである舗装材製造大手Ergon Asphalt & Emulsions, Inc.が共同所有する温暖混合アスファルト舗装関連の6件の米国特許に関する。両社は2008年、Ingevityに対して全世界・独占・有償の実施許諾を付与したものの、サブライセンスの設定にはErgonの事前承認を必要とすること、第三者による侵害が発生した場合の提訴・解決には両者の共同コントロールを及ぼすこと、ロイヤリティを取得することなどを契約上留保していた。2024年、A.L.M.とErgonはアスファルト添加剤を製造するZydex Industries Private Ltd.他に対し、6件の特許侵害を理由として提訴したが、Zydex側は「ライセンス契約により実質的にすべての排他的権利がIngevityに移転している」と主張してArticle III適格欠如を理由とする却下を求めた。デラウェア地区連邦地方裁判所はZydexの主張を認め、2024年11月にCAFC先例であるMorrow v. Microsoft Corp.(499 F.3d 1332, Fed. Cir. 2007)等に依拠して訴えを却下した。

A.L.M.とErgonはCAFCに控訴。CAFCのChen裁判官は、判決理由のかなりの分量を割いて、当裁判所の判例が「排他的権利」の範囲を完全には定義してこなかったこと、Article III適格(injury-in-fact)と281条の「patentee」適格の判断を従来の判例が一体的に扱ってきたことが「地方裁判所にとって判例適用の難しさを生んでいた」と率直に認めた。CAFCは、2019年のLone Star Silicon Innovations LLC v. Nanya Tech. Corp.(925 F.3d 1225)が両者を明確に区別したと指摘した上で、Article III分析と281条分析は「事実関係において重なり合う」場面が現にあり、各々の事案について個別具体的な検討が必要であると整理した。

そのうえで本件の事実関係について、CAFCはErgonが留保するサブライセンス承認権・ロイヤリティ請求権・自ら提訴する権利の3点が一体として「排他的利益(exclusionary interest)」を構成すると判断した。とりわけサブライセンス承認権については、「ライセンシーが自らの判断で侵害被疑者に実施を許諾することを妨げる」ものであり、特許権者が留保する提訴権が「illusory(実質を欠く)」とはならない決定的な要素になると説明している。CAFCは2024年のIntellectual Tech, LLC v. Zebra Technologies Corp.(22-2207)が法定当事者適格の判例であるAlfred E. Mann Foundation v. Cochlear Corp.を憲法適格の文脈で「明示的に肯定的に引用していた」点に触れ、地方裁判所およびZydexがMannを281条分析に限定して読んだ点は誤りであると述べた。

ZydexはさらにErgonがライセンス付与によって訴訟を終結させる手段を持たないことが提訴権の実質性を損なうと主張したが、CAFCはErgonが金銭和解や被疑侵害者による実施停止合意などの手段によって紛争を解決できることを指摘し、ライセンス付与権の不存在のみをもって提訴権が「illusory」と評価されることはないと結論づけた。一方でMorrow事件との区別についても明示し、Morrowでは原告が特許権者ではなく、特許権の実施・ライセンス・ロイヤリティに関するすべての権利を別主体が保持しており、提訴権のみが切り離されていた構造的な差異があると整理した。

本判決は同日、医療機器分野の特許侵害事件Recor Medical, Inc. v. Medtronic Ireland Manufacturing Unlimited Co.(No. 25-1998)にも適用されており、CAFCは関連会社への独占的ライセンス付与後も特許権者が留保する権利の組合せからArticle III適格を肯定している。実務上は、独占的ライセンス契約の起案・レビューにあたって、サブライセンス承認権・ロイヤリティ取得権・提訴権の留保条項が特許権者の提訴適格に直結することが改めて確認された形である。半導体・医薬・素材など、関連会社を介してライセンスを設計するグローバル企業にとって、本件は契約構造の見直しを促す重要な指針となる。

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パテント探偵社 編集部

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