米連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は2026年5月12日、Extremity Medical, LLC対Nextremity Solutions, Inc.事件において、35 U.S.C. § 285に基づく「例外的事件」の弁護士費用償還の対象には、地裁訴訟と並行して提起された当事者系レビュー(IPR)手続が含まれないと判断した。Lourie判事執筆の判決は、Dragon Intellectual Property LLC対DISH Network L.L.C.事件(2024年)の先例を再確認するものとなる。
本件は、Extremity Medicalが整形外科用インプラントに関する米国特許第8,303,589号に基づきNextremityをデラウェア州連邦地裁で訴えたことに端を発する。NextremityはIPRを申し立て、特許審判部(PTAB)は同特許のクレームを無効と判断した。これに伴い地裁訴訟は実質的に決着し、Nextremityは§ 285に基づく弁護士費用償還を申し立てた。地裁訴訟分の費用5万2,573ドルは認められたが、IPR手続分として請求された34万3,660.86ドルについては地裁が支払いを認めなかった。Nextremityはこの後段の判断を不服として控訴した。
NextremityはCAFC審理において、Dragon事件の「硬直的ルール」は連邦最高裁のSullivan対Hudson事件(490 U.S. 877、1989年)と整合しないと主張した。Sullivan判決は、「行政手続が司法訴訟の解決と密接に結びつき、議会が費用償還を認めた目的の達成に必要であれば、費用償還対象となる訴訟の一部とみなすべきである」と判示している。
しかしCAFCはこの主張を退けた。判決は、Sullivan判決が対象としていたのは「地裁から差し戻された強制的な行政手続」であり、適用範囲は狭い類型の行政手続に限定されると指摘した。続けて「IPRが地裁訴訟に下流の影響を及ぼし得るという事実をもって、Sullivan判決にいう地裁訴訟と『密接に結びついた』手続に転換するものではない」と述べている。IPRは特許権者の自主的な選択肢ではなく、被疑侵害者が独立して開始する手続であり、地裁訴訟とは別個の制度であるという理解が背景にある。
Nextremityはさらに、§ 285が要求する「事件の総合的・衡平的評価」のもとでは、地裁が「事件の全体的事情」を考慮してIPRの費用も認めるべきだと主張した。CAFCは、地裁は「目の前の事件において」まさに総合的アプローチを採っていると応じた。§ 285の例外的事件性をIPR手続にまで拡張すれば、地裁が関与していない手続を評価することを要求することになり、制度設計と整合しないと判示している。
他方、ExtremityはNextremityへの弁護士費用負担命令そのものを争う形で交差控訴を提起していたが、CAFCはこれも認めなかった。判決は、Extremityには訴訟提起前の調査の欠如、PTAB手続における該当クレームの防御放棄、地裁訴訟における実質的な反論の欠如があったと指摘した。「全体としてみれば、記録は通常の訴訟上の弱さを超えるものを示しており、Extremityの訴訟態度は当事者が色のついた有効性理論を主張・防御する典型的な特許紛争から『際立っている』と地裁が結論づけたことを支持する」と判決は述べている。
本判決の実務的含意は大きい。IPRが特許権者の主張する特許を無効化した場合でも、被疑侵害者が並行IPRに投じた弁護士費用は、たとえ地裁訴訟分が§ 285の例外的事件として認められても、別途回収することはできない。一般的にIPR費用は地裁訴訟費用を上回ることが多く、Nextremityのケースでも約6.5倍にのぼった。被疑侵害者は、戦略立案段階でIPRと地裁訴訟の費用配分を慎重に検討する必要がある。
特に、地裁訴訟をステイ(中止)させてIPRに集中する戦略を採る場合、IPRで勝訴しても費用回収は地裁訴訟側に限定されることをあらかじめ織り込む必要がある。特許権者側にとっては、根拠の薄い特許行使に対する経済的抑制力が部分的にとどまることになり、§ 285の抑止機能はIPR手続には及ばないという構図が改めて明確化された格好だ。
なお、Dragon事件以降のCAFC判例の流れは一貫しており、本判決はその延長線上にある。連邦議会がこの構図を変更するためには法改正が必要となるが、最近のIPR制度をめぐる議論は申立件数の歴史的低水準化など別の論点に集中しており、§ 285の射程を見直す立法上の動きは現時点では確認されていない。
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パテント探偵社 編集部
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