米国特許商標庁(USPTO)は2026年3月13日、グラフィカルユーザーインターフェース(GUI)およびアイコンに関する意匠特許出願の審査について、補足ガイダンス(Supplemental Guidance for Examination of Design Patent Applications Related to Computer-Generated Interfaces and Icons、91 FR 12394)を連邦公報で公示した。意見公募期間は2026年5月12日深夜に締め切られ、USPTOは寄せられた意見をふまえて運用を確定させる。今回の改訂は、長年にわたりGUI出願実務を支配してきた1992年の審判決定Ex parte Strijlandおよび審査便覧MPEP 1504.01(a)の枠組みからの実質的な離脱を意味する。
最大の変更点は、ディスプレイパネルを実線または破線で描かなければならないという描画要件が廃止される点にある。従来の運用では、35 U.S.C. § 171の「製造物品」(article of manufacture)要件を満たすために、GUIやアイコンを物理的なスクリーンの表面装飾として位置づける必要があった。実務的には、ノートPCやスマートフォンの筐体を破線で表し、その画面上にGUIを配置するという定型の図面を提出することが事実上の必須条件だった。
新ガイダンスはこの形式要件を除去する代わりに、出願人に対して「製造物品」を明細書のタイトルおよびクレームの文言で明示することを求める。具体的には、単に「アイコン」「グラフィカルユーザーインターフェース」と記載するだけでは不十分であり、「コンピュータ用グラフィカルユーザーインターフェース」(Graphical user interface for a computer)または「コンピュータアイコン」(Computer icon)といった、デザインがコンピュータないしコンピュータシステムのためのものであることが明示される表現を要求する。USPTOは、これは§ 171の解釈変更ではなく、現代のコンピュータとユーザーインターフェースの実態を反映した運用の現代化であると説明している。
第二の重要な変更は、投影像(Projections)、ホログラム(Holograms)、仮想現実・拡張現実(VR/AR)といったいわゆるPHVAR分野への意匠保護の明示的な拡張である。デジタルデザインは平面型ディスプレイから離れ、空間コンピューティング環境や立体投影など多様な形式に発展しており、これらを対象とする出願は世界的に増加している。GUIを物理スクリーンから切り離すことで、米国でも実態に即したVR/AR意匠保護の道筋が開かれる。
新ガイダンスは、1967年の連邦巡回区控訴裁判所先例In re Hrubyを論拠として明示的に援用している。同事件は、噴水の意匠が外部の水圧や配管装置に依存することは§ 171の製造物品要件を否定する理由とはならないと判示したものだ。USPTOは、コンピュータ生成インターフェースがCPUとソフトウェアに依存することも同様に§ 171拒絶の根拠とはならないとの解釈を採用する。ガイダンスの実例10として示された「コンピュータ用バーチャルリアリティ・モーターサイクル・インターフェース」(Virtual reality motorcycle interface for a computer)の請求は、図面に物理的なヘッドセットやスクリーンが描かれていなくとも§ 171を満たすとされる。
実務的含意は広範に及ぶ。第一に、ソフトウェアおよびUIデザインを保護する意匠出願の書類作成負担が軽減される。従来必須だったスクリーン筐体の破線描画を省略でき、図面はGUIそのものに集中できる。第二に、メタバース、空間コンピューティング、ヘッドマウントディスプレイ向けのインターフェース設計を対象とした意匠保護戦略が現実的な選択肢となる。これまで「物理的な表示画面が存在しない」ことを理由に拒絶されるリスクを抱えていた出願人にとって、米国市場での意匠出願の予見可能性が高まる。
第三に、米国の意匠制度は欧州や日本、韓国のGUI意匠制度と少なくとも形式面で大きく接近する。欧州連合知的財産庁(EUIPO)では、登録共同体意匠(RCD)制度のもとでGUIやアイコンを単独で登録できる運用が確立しており、日本国特許庁も令和元年改正意匠法および令和2年4月施行のガイドラインで画像意匠の保護対象を拡大している。米国がこれら主要法域との運用乖離を縮小することは、グローバルポートフォリオを構築する企業にとって出願戦略の標準化を後押しする。
ただし、移行期の論点は残る。既存のMPEP 1504.01(a)に基づく既存出願・既登録意匠との関係、§ 171の適用範囲をめぐる将来的な訴訟リスク、そして審査運用の現場での解釈統一などである。USPTOは公募意見をふまえてMPEPの正式改訂を行う見込みであり、改訂版MPEPの公表時期と内容が次の注目点となる。日本企業を含む海外出願人としては、米国意匠出願の戦略を見直し、PHVAR分野での出願余地を再評価する時期にきている。
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パテント探偵社 編集部
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