連邦巡回区控訴裁判所、脇見運転防止特許の§101適格性欠如を認定──TJTM Technologies v. Google

知財ニュース

2026年5月5日、米国連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は、TJTM Technologies, LLC v. Google LLC 事件において、TJTM Technologies社(以下「TJTM社」)が保有する米国特許第8,958,853号(’853特許)の請求項が35 U.S.C. §101の下で特許適格性を欠くと判断し、カリフォルニア北部地区連邦地裁による訴訟却下決定を支持した。Judge Chenが主執筆し、Judge Dyk及びJudge Starkが加わる非先例的決定である。

本特許の内容

‘853特許は、モバイルデバイスが「非活性モード(inactive mode)」に入った際に、着信通話・テキスト・電子メール等の通知を抑制し、送信者に自動返信メッセージを送る技術を請求している。同特許が想定する主要なユースケースは、スマートフォンが車両とペアリングした際に自動的に非活性モードへ移行するシナリオであり、脇見運転防止のためのハンズフリー・通知遮断機能として機能する。

TJTM社は2024年2月、Google AndroidスマートフォンのDo Not Disturbや脇見運転防止機能が’853特許を侵害するとして、カリフォルニア北部地区連邦地裁に提訴した。Googleは却下申立を行い、地裁はAlice Corp. v. CLS Bank国際事件(最高裁2014年)が確立した二段階フレームワークを適用した。

地裁でのAlice二段階テスト

Aliceステップ1において、地裁は代表クレーム1が「通知をスクリーニングするという抽象的アイデア」に向けられていると認定した。TJTM社は修正機会を得てステップ2に関する主張を補強したが、地裁は各構成要素が汎用的・周知のものであり、従来の方法で組み合わされていると結論付け、2024年9月の第1次修正訴状提出後も訴訟を却下した。TJTM社はこれを不服として控訴した。

CAFCの判断

TJTM社は控訴審において、モバイルデバイスが脇見運転という現実の技術的問題を技術的解決策で対処しているとして、地裁のAliceステップ1分析に誤りがあると主張した。Contour IP Holding LLC v. GoPro, Inc.等、技術的問題への技術的解決策が特許適格と認められた先例との類比も試みた。

しかしCAFCはこれを退けた。Judge Chenは、クレーム1はモバイルフォンの基盤技術自体への変更を一切記載せず、単に既存のスマートフォンに通信抑制機能を追加したに過ぎないと指摘した。ユーザーへの付加的な利便性(脇見運転防止)は認められるものの、「その追加的なユーザー利益のみでは、当裁判所の先例が求める『技術的改善』には当たらない」と判示した。

CAFCはまた、Enfish, LLC v. Microsoft Corp.のようにコンピュータ機能の構造的改善を直接の対象とした事案と’853特許を明確に区別し、TJTM社の請求項は抽象的アイデアの領域を超えないと結論付けた。

Aliceステップ2においても、TJTM社の主張は「脱結論的(conclusory)」に過ぎないとして退けられた。CAFCはTrinity Info Media, LLC v. Covalent, Inc.を引用し、Rule 12(b)(6)に基づく却下申立を覆すためには、請求項の発明概念に関する実質的な主張が必要であると述べた。最終的に、CAFCは「当該特許のステップの連続は、スマートフォン上での通知抑制という抽象的アイデアの記述に過ぎない」と判示した。

実務への示唆

本決定は非先例的(nonprecedential)であるが、§101の適用において重要な含意を持つ。特にモバイルデバイス、車載連携、通知管理に関連する特許クレームは、単にユーザー利便性の向上を謳うだけでは特許適格性を維持できないことを改めて示している。技術的改善の主張には、基盤となるハードウェアやソフトウェア構造への具体的な変更を明示することが実務上不可欠となる。

脇見運転防止技術をめぐっては、Apple、Google、自動車メーカー各社がいずれも特許ポートフォリオを保有しており、同種の§101問題に直面する可能性がある。訴訟戦略上、クレームの特許適格性を事前に精査する重要性が一層高まっている。

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パテント探偵社 編集部

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