米国特許商標庁(USPTO)は2026年4月1日付けの官報通知(Official Gazette Notice)を通じて、職権再審査(ex parte reexamination)手続きに新たな「事前意見書(pre-order paper)」制度を導入した。同年4月5日以降に提出された再審査請求に適用される本制度により、特許権者は再審査開始の可否を決める「実質的新問題(substantial new question of patentability:SNQ)」判断が下される前に、審査官に対して書面で自己の立場を示せるようになった。
制度変更の背景:職権再審査申請件数の急増
職権再審査は、第三者が先行技術を引用して特許の有効性に疑義を申し立てる手続きである。USPTOはその申立が「SNQ」を提起しているかを判断し、再審査を開始するか決定する。従来制度では、特許権者はこのSNQ判断前に意見を述べる機会を持たず、再審査が一旦開始されてから初めて応答できる構造だった。
今回の変更を主導したUSPTO長官John A. Squiresは、職権再審査申請件数の急増を変更の契機として挙げた。2026会計年度第1四半期(2025年10月〜2025年12月)の申請件数は223件に達し、年換算で約890件のペースとなる。これはFY2024の407件、FY2025の495件と比較して顕著な増加だ。
背景には、Patent Trial and Appeal Board(PTAB)におけるinter partes review(IPR)の機関率(institution rate)の大幅低下がある。2024年10月時点で約65%だったIPRの機関率は、2026年2月には約37%へと43%減少した。この結果、コストが低く審査官裁量が大きい職権再審査が、特許無効化を狙う第三者にとって代替手段として注目されるようになったとみられる。
新制度の詳細:「30日・30ページ」のルール
本制度の下、特許権者は再審査請求の送達(service)を受けた日から30日以内に、30ページ以内(任意の宣言書を除く)の事前意見書を提出できる。提出にペティション費用は不要。30日の期限は延長不可とされている。
意見書の内容はSNQの成否に絞った主張に限定される。具体的には、請求人が引用する先行技術の教示が、特許クレームについてSNQを構成しない理由を述べるものでなければならない。一方、35 U.S.C. § 325(d)に基づく裁量的却下の主張や、先行技術の新規性・非重複性に関する主張は含められない。
再審査請求人(第三者)は原則として特許権者の事前意見書への回答はできない。ただし、特許権者が「事実や法律を誤って表示した」または「SNQ判断を実質的に阻害するその他の不適切な主張」を行った場合に限り、37 C.F.R. § 1.182に基づくペティションにより、10ページ以内の反論書を提出できる。
実務上の含意
今回の変更は、職権再審査の戦略的位置づけを大きく変える可能性がある。従来、職権再審査はIPRと比較して特許権者への通知タイミングが遅く、防御準備の余地が限られていた。事前意見書制度の新設により、特許権者は引用先行技術がSNQに該当しない理由を早期に示すことができ、再審査の開始そのものを阻止できる可能性が生じた。
一方、米国の実務家の間では本制度の法的根拠をめぐる議論も生じている。職権再審査を規律する37 C.F.R. §§ 1.510〜1.570の規則は、こうした事前手続きを明示的に想定しておらず、USPTOが規則改正(notice-and-comment rulemaking)を経ずに官報通知(guidance)の形式で本制度を導入したことについて、法的安定性の観点から疑問を呈する声もある(Mondaq、IP Tech Blog掲載の各論考を参照)。
本制度の実際の効果——事前意見書の提出が再審査機関率にどれほど影響を与えるか——は、今後の実績データの蓄積を待つ必要がある。職権再審査件数の増加傾向が続く現況において、本制度が特許権者の早期防衛手段として機能するかが注目される。
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パテント探偵社 編集部
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