任天堂のモンスター捕獲関連特許、特許庁が20件超を拒絶——パルワールド訴訟への波及効に注目

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特許庁は2026年4月、任天堂株式会社が出願していたモンスター捕獲メカニクスに関する20件超の特許出願を拒絶したことが明らかになった。拒絶理由として新規性の欠如と豊富な先行技術が挙げられており、審査官はARK: Survival Evolved、Monster Hunter 4、Craftopia、Pokémon GOなど、既存ゲームに同様のシステムが存在することを指摘した。この動向は、任天堂が株式会社ポケットペア(Pocketpair)とその人気タイトル「パルワールド」に対して提起した特許侵害訴訟(以下「パルワールド訴訟」)の行方に重大な影響を与えうるとして、ゲーム業界と知財業界の双方から注目を集めている。

任天堂とポケモン株式会社は2024年9月、ポケットペアがパルワールドにおいてモンスター捕獲・育成に関連する特許(特許第7505852号および特許第7545191号)を侵害しているとして東京地方裁判所に訴訟を提起した。両特許はいずれも、プレイヤーキャラクターがフィールド上でモンスターを捕獲するゲームシステムに関する発明を権利範囲としている。パルワールドは2024年1月のリリースから1カ月足らずで累計販売本数が2000万本を超えた大ヒットタイトルであり、ポケモンとの外観上の類似性が当初から議論を呼んでいた。

今回特許庁が拒絶した出願番号2024-031879は、訴訟で係争中の上記2特許と密接に関連する発明を含むとされる。特許庁の審査では、ARK: Survival Evolvedにおける生物テイム・捕獲システム、Monster Hunter 4のモンスター捕獲メカニクス、Craftopiaのクリーチャー捕獲システム、Pokémon GOの位置情報連動型モンスター捕獲システムが先行技術として引用された。これらのゲームが発売または公開された時点よりも後に任天堂が出願した場合、当該出願に新規性がないと判断されることになる。

特許庁による拒絶はあくまで「出願」に対するものであり、すでに登録済みの訴訟係争特許(第7505852号・第7545191号)の有効性を直接否定するものではない。ただし、同一発明者・同一権利者が出願した近接する発明群について特許庁が先行技術を認定したという事実は、係争特許に対する無効審判(特許法第123条に基づく)において有力な先行技術証拠として援用される可能性がある。ポケットペアの代理人が無効審判を申し立てた場合、今回引用された先行技術文献を用いて係争特許の新規性または進歩性の欠如を主張することが考えられる。

さらに、米国特許商標庁(USPTO)も2026年4月、任天堂の「キャラクターを召喚して戦闘させる」特許出願を拒絶したことが明らかになっており、日米双方で類似の拒絶が相次いでいる。USPTOでの拒絶は米国訴訟に直接の影響を持つわけではないが、任天堂のモンスター関連特許群全体の権利範囲をめぐる主張が各国の審査過程で厳しい評価にさらされていることを示している。

パルワールド訴訟の現状として、2026年4月時点で日本では公判期日は未定、米国でも訴訟は継続中である。ポケットペアは一貫して侵害を否定しており、今後の無効審判・抗弁において今回の特許庁拒絶を積極的に援用することが見込まれる。一方、任天堂は登録済み特許の有効性を維持すべく、拒絶された出願について補正・分割出願等の対応を取ることが予想される。

本件が持つ実務的示唆は、ゲーム業界の特許戦略全体にも及ぶ。ゲームのコアなゲームプレイメカニクス——とりわけ複数の先行タイトルに同様の要素が存在するシステム——を特許によって独占的に保護することの困難さを、今回の審査結果は改めて浮き彫りにした。特許庁の審査において、ゲームの先行技術調査はソフトウェア特許一般と同様に厳格化されており、先行ゲームタイトルそのものが有力な先行技術文献として機能しうる。権利化を検討するゲーム企業は、特許出願に際して先行タイトルとの差別化を出願段階から明示的に論述する必要がある。

任天堂はパルワールド訴訟に関するコメントを発表していない。ポケットペアも直近の声明を出していないが、今後の訴訟手続きにおいて今回の特許庁拒絶がどのように活用されるかが注目される。

日本の特許法における無効審判制度について補足する。特許第7505852号および第7545191号に対してポケットペアが無効審判(特許庁の審判部への申立て:特許法第123条第1項)を請求した場合、特許庁の審判部が独立してこれら特許の有効性を審査する。無効理由としては、新規性の欠如(特許法第29条第1項)または進歩性の欠如(同第2項)が主たる根拠となりうる。今回JPOの審査部が引用した先行技術——ARK: Survival Evolved等——は、審判部においても有力な先行技術として機能しうる。審判の結果、特許が無効と判断された場合、その効果は特許権設定登録時に遡及するため(特許法第125条)、権利が初めから存在しなかったものとして扱われ、訴訟での侵害認定の基礎が崩れることになる。

また、今回拒絶された出願と係争特許の技術的・法的関係を整理する必要がある。一般に、同一発明者・同一権利者が出願した特許ファミリー(関連出願群)において、後続出願が先行技術を理由に拒絶された場合、登録済みの親特許または姉妹特許との間で矛盾が生じうる。ただし、拒絶された出願のクレームと登録済み特許のクレームの具体的な記述(クレームランゲージ)が異なれば、一方の拒絶が他方の無効に直結するわけではない。特許庁の拒絶はあくまで当該出願のクレームに基づくものであり、係争特許の有効性の問題は別個の手続きで判断されることになる。

ゲーム業界におけるソフトウェア・ゲームメカニクス特許の保護可能性については、従来から議論が続いている。任天堂が今回主張したようなゲームプレイメカニクス特許は、日本では「自然法則を利用した技術的思想の創作」(特許法第2条第1項)の要件を満たすとして認められてきた歴史がある一方、先行技術の豊富なゲーム業界では新規性・進歩性の立証が困難なケースが増えている。任天堂、カプコン、コナミ、スクウェア・エニックスなどの大手ゲームメーカーは積極的な特許出願を続けているが、他の開発者の権利行使に対する牽制として機能させる目的の特許が、実際の審査では拒絶される事例も生じている。

任天堂はこれまでのゲーム業界での特許権行使において、技術的革新の保護を主な目的としてきた。Joy-Conコントローラーや体感型ゲームシステム(Wii)関連の特許群がその典型例である。一方、今回のパルワールド訴訟のように、ゲームプレイのコンセプト・メカニクス層に踏み込んだ権利行使は前例が少なく、業界全体に波紋を広げている。審判・訴訟の行方は、ゲーム業界における特許権の射程範囲を画する判断として、今後数年にわたって実務上の重要な参照事例となるだろう。

本件の今後の展開として、東京地方裁判所でのパルワールド訴訟の公判期日設定が注目される。無効審判が先行した場合、裁判所が訴訟手続きを停止するか否か(いわゆる「侵害訴訟の中断」)も論点となりうる。日本の実務では、無効審判と侵害訴訟が並行して進行するケースも多く、最高裁平成12年判決(キルビー特許事件)以降、侵害訴訟の場でも特許の有効性を争うことが認められている。パルワールド訴訟は、ゲームメカニクス特許という新興領域での先例として、知財実務家・ゲーム法務担当者双方にとって注視すべき案件である。

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パテント探偵社 編集部

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