10x Genomics, Inc.は2026年5月8日、Element Biosciences, Inc.を相手取り、次世代シーケンシング(NGS)関連の米国特許4件を侵害したとしてデラウェア連邦地方裁判所に特許侵害訴訟を提起した(事件番号:1:26-cv-00538)。同社は同日、係争中だったCurio Biosciences社との訴訟について、トライアル直前にデラウェア地裁が停止命令(stay)を認める和解手続に入っており、ライバル排除に向けた米国・欧州統一特許裁判所(UPC)並行戦略の重心がElement Biosciencesに移った形となった。
新たな訴訟の対象は、Element Biosciencesが市販する多目的解析プラットフォーム「AVITI24」および関連技術である。10x Genomicsは、ハーバード大学からライセンスを受けた空間生物学・シーケンシング関連の米国特許4件を主張している。代理人はリチャーズ・レイトン&フィンガー(Richards, Layton & Finger)法律事務所のFrederick L. Cottrell, III氏らおよびTensegrity Law Group LLPのMatthew Powers氏らが務める。
Element Biosciencesは同社プレスリリースで、本提訴の主張に「強く反論する」とし、「同じ特許ポートフォリオを業界全体のイノベーションを阻害するために繰り返し用いる広範なパターン」を反映するものであると述べた。同社は防御に立ち向かう姿勢を明確にしており、早期和解よりも全面的に争う構えと見られる。
Curio Biosciencesとの和解
10x Genomicsは並行して、Curio Biosciencesとのデラウェア地裁訴訟をトライアル直前に終結させた。両当事者は5月8日に手続停止のスティピュレーションを提出し、地裁はこれを承認した。和解条件の詳細は明らかにされていないが、当事者間で和解実務が進行中であり、トライアルが回避される見通しとなった。
10x GenomicsはCurio Biosciencesに対し、米国とUPCの両方で並行訴訟を展開してきた。2025年にはUPCデュッセルドルフ地方部が予備差止命令でCurioによる侵害を認定し、本訴でもデュッセルドルフ地方部は侵害を維持していた。米国の和解はこれらの先行する欧州判断を背景に成立した可能性が高い。
10x Genomicsの一連の特許行使
10x Genomicsは近年、NGSおよび空間生物学領域で活発な特許行使を行っている。2025年10月には共同原告のRocheおよびPrognosysとともにIllumina社をシーケンシング特許侵害で米国・欧州にて提訴した。また同年5月にはBruker社(NanoString関連)との世界規模の特許紛争を和解で終結させ、Brukerが10x Genomicsに対し分割払いで6,800万ドルおよび継続ロイヤルティを支払うことに合意していた。これは、デラウェア連邦地裁の陪審が下した3,100万ドルの評決に続く形での解決である。
これらの紛争はNGSと空間生物学分野における知的財産競争の激化を示している。10x Genomicsはハーバード大学およびPrognosys Biosciencesから取得した特許ポートフォリオを軸に、Illumina、Bruker、Curio、そして今回のElement Biosciencesと、新規参入や近接領域の競合企業を相次いで提訴してきた。
NGS市場における戦略的含意
Element Biosciencesは2022年に商業化を開始した比較的新しいNGSプロバイダーで、AVITIプラットフォームを展開している。AVITI24は同社の最新世代マルチオミクス解析プラットフォームであり、10x Genomicsの主張が認められれば事業展開に重大な影響が及ぶ可能性がある。Element側が早期和解を拒否する姿勢を示していることから、米国地裁での実体審理に発展する可能性が高い。
業界関係者の間では、10x Genomicsが米国とUPCで並行訴訟を展開してきた経緯から、Element BiosciencesがUPCでも提訴される可能性が指摘されている。本稿執筆時点でUPCでの提訴は公的に確認されていないが、10x Genomicsの過去の訴訟戦略を踏まえれば、欧州での追加提訴の可能性は排除できない。
NGS分野は10x Genomics、Illumina、Roche、Brukerに加えて新興のElement Biosciencesが入り乱れる多正面的な特許紛争空間となっており、複数管轄での並行訴訟と段階的な和解が業界の構造を変えつつある。Curioとの和解は10x Genomicsにとって資源の再集中を可能にし、Element Biosciencesに対する執行強化につながる可能性がある。
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パテント探偵社 編集部
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