米国連邦巡回区控訴裁判所(CAFC)は2026年4月16日、Teva Pharmaceuticals International GmbH(以下、Teva)が保有する抗CGRP拮抗抗体の用途発明特許3件について、Eli Lilly and Company(以下、Lilly)による故意侵害を認定した陪審評決を復活させる判決を下した。事件番号24-1094、プロスト判事執筆の全員一致意見は、35 U.S.C. § 112(書面記述要件・実施可能要件)の分析において、化合物属そのものを請求するクレームと、化合物の使用方法を請求するクレームとを明確に区別する判断枠組みを示し、2023年の最高裁判決Amgen Inc. v. Sanofiの射程が前者に限られることを確認した。
事件の経緯
Tevaは2018年9月、Lillyが片頭痛治療薬Emgality(ガルカネズマブ)の販売を通じてTevaの特許を侵害したとしてデラウェア州連邦地方裁判所に提訴した。対象となったのは米国特許第8,586,045号、第9,884,907号、第9,884,908号の3件で、いずれも2006年11月を優先日とし、ヒト化抗CGRP拮抗抗体を用いた頭痛の発生率低減方法を請求項の中核に据えている。
陪審審理においてTevaは勝訴し、Lillyによる故意侵害の認定と1億7700万ドルの損害賠償評決を獲得した。しかし地裁は審理後のJMOL(法律問題としての判決)において、当該クレームが書面記述要件と実施可能要件の両方を充足しないとして評決を覆し、特許無効と判示した。Tevaはこれを不服としてCAFCに控訴した。
CAFCの判断——Amgenとの区別が核心
本件の法律的争点の中心は、Amgen Inc. v. Sanofi(598 U.S. 594、2023年)との関係にある。同最高裁判決は、抗体の「化合物属(ジーナス)それ自体」を請求するクレームについて、その属の全メンバーを製造・使用可能にすることを要求し、広範な機能的クレームに対する実施可能要件の基準を大幅に引き上げた。
プロスト判事はAmgenを否定せず、その射程を明確化することでTevaの特許を救済した。Tevaの特許クレームは、ヒト化抗CGRP拮抗抗体という化合物属の全体ではなく、「明細書がその属の全メンバーについて達成できると開示している特定の限定目的——頭痛治療——のために当該抗体を使用する方法」のみを請求している。この構造的差異が、Amgenとの分岐点となる。
書面記述要件については、明細書がヒト化抗CGRP拮抗抗体として機能するための構造的特徴を十分に開示しており、陪審がTevaに有利な評決を返すのに合理的な証拠が存在すると認定した。実施可能要件については、方法クレームは化合物の製造・合成そのものを請求するものでなく、Amgenが問題とした「複雑な化合物属全体の製造可能性」の要求は本件には適用されないと判示した。
故意侵害と損害賠償の復活
CAFCはさらに、地裁がJMOLで否定した故意侵害についても判断を示した。Lillyは特許の存在を認識しながらEmgalityの販売を継続しており、陪審が故意侵害と評決した根拠に合理性があるとして、この評決も復活させた。1億7700万ドルの損害賠償評決は本判決により再び法的効力を持つこととなる。
実務への影響
Amgen判決以降、広範な抗体クレームに対する実施可能要件の審査が厳格化し、バイオ医薬品分野の特許戦略に大きな影響を与えてきた。本判決はその文脈において、化合物属を直接請求するのではなく「既知の属を用いた用途発明」として権利化する手法が§ 112リスクの観点で有利になり得ることを示す先例となる。
具体的には三点の示唆が重要である。第一に、既知の化合物属が特定の用途に機能することを明細書が開示していれば、その用途に限定した方法クレームはAmgenの厳格な実施可能要件を免れる可能性がある。第二に、機能的・包括的な化合物クレームを避け、特定用途の方法クレームとして権利化する戦略は、出願段階から検討する価値が増した。第三に、本判決はAmgenを制限するものであり否定するものではなく、化合物属そのものを広く請求する特許に対するAmgenの厳格な基準は引き続き有効である。
医薬品・バイオテクノロジー分野における特許権者、ライセンシー、そして新薬開発を進める企業にとって、本判決は特許ポートフォリオ戦略の再評価を促す内容といえる。特に、既存の抗体を新たな疾患領域に応用する「用途発明」型の知財戦略が、改めて注目を集める可能性がある。
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パテント探偵社 編集部
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