ASAP!プログラムの概要
米国特許商標庁(USPTO)は、2025年10月から2026年4月20日までの期間限定で、人工知能を活用した特許審査の自動化パイロット「ASAP!(Artificial Intelligence Search Automated Pilot Program)」を実施しています。このプログラムは、出願人が提出する特許出願に対して、AI技術による自動事前審査検索(automated pre-examination search)を行い、潜在的な先行技術に関する早期情報を提供するものです。ASAP!の目的は、特許出願の審査過程を効率化し、出願人に対してより迅速で透明性の高い審査手続きを実現することにあります。
本プログラムは自発的な参加制度であり、出願人が受け取る自動検索結果通知書(Automated Search Results Notice、ASRN)は正式なオフィスアクション(office action)ではなく、応答義務がありません。これは審査の初期段階で先行技術情報を提供するプレリミナリー(予備的)なコミュニケーションツールとして機能します。
技術的な仕組みと検索範囲
ASAP!に採用されるAIシステムは、分類体系(特許分類システム、CPC system)から得られた文脈情報を活用し、特許出願の明細書、請求項、および要約を分析します。これにより、出願の技術分野を正確に把握し、最も関連性の高い先行技術を抽出します。AIによる検索の対象には、米国特許(US Patents)、米国公開前特許(US Pre-Grant Publications)、および外国特許の画像およびテキスト資料を統合したデータベース(Foreign Image and Text Database、FIT)が含まれます。
検索結果は関連性に基づいてランク付けされ、最大10件の文献が出願人に提示されます。注目すべき点として、AIトレーニングに使用されるデータは公開特許情報に限定され、出願人・発明者・譲受人の情報は意図的に除外されています。これはAIモデルのバイアス軽減措置として設計されており、個人情報保護と同時に、より客観的な先行技術検索を実現することを目指しています。
出願対象と適格要件
ASAP!の対象となるのは、35 U.S.C. 111(a)に基づき提出される、非継続的な非仮特許(original, noncontinuing, nonprovisional utility applications)です。つまり、初めて出願される通常の実用新案特許が対象となります。一方、国際出願の章立て出願(international 371 applications)、植物特許、意匠特許、再発行特許、および継続出願(continuing applications)は適格要件を満たしません。ただし、加速審査制度(Track One applications)の適用を受ける出願は適格範囲に含まれます。
ASAP!への参加を希望する出願人は、DOCX形式での出願が必須条件です。加えて、Patent Center電子オフィスアクションプログラム(e-Office Action Program)への登録が必須となります。ASAP!プログラムの総容量は最少1,600件で、技術分野ごとの技術センター(Technology Center)ごとに最少200件の枠が確保されています。
出願手続きと費用
ASAP!への参加には、所定の申請書式であるPTO/SB/470の提出が必須です。加えて、37 CFR 1.17(f)で規定される請願料(petition fee)の支払いが必要です。出願期間は2025年10月20日から2026年4月20日までの限定期間であり、この期限を過ぎた出願はプログラムに適格となりません。
ASRN取得後の出願人の選択肢
ASAP!プログラムの大きなメリットは、正式な審査開始前に先行技術に関する早期情報が得られることです。ASRN受領後、出願人には複数の戦略的選択肢が開かれます。最初に、ASRN提供文献に基づいて予備的補正(preliminary amendment)を先制的に提出する戦略が挙げられます。これにより、出願人は先行技術を踏まえた請求項の明確化や範囲調整を早期に実施でき、その後の審査プロセスの加速化が期待できます。
第二の選択肢は、審査の延期(deferral)を請求することです。出願人は、ASRN情報をもとに追加的な調査や戦略立案に時間をかけたい場合、審査開始を一定期間延期する制度を利用できます。第三の選択肢は、出願の速やかな放棄(express abandonment)であり、この場合、出願人は出願料の返金を受けることが可能です。これらのオプションにより、出願人は市場ニーズやビジネス判断に基づいて、より柔軟な特許戦略を立案できるようになります。
重要な点として、ASRN通知書に含まれた文献は、その後の正式な特許公報(patent face)には登録されません。ただし、審査官が当該文献を積極的に引用するか、出願人が情報開示陳述書(Information Disclosure Statement、IDS)を通じて提出した場合は除きます。つまり、ASAP!プログラムから提供される検索結果は、あくまで出願人の戦略立案補助ツールという位置づけであり、最終的な審査判断は審査官に委ねられています。
AI活用の意義と実務的インパクト
ASAP!プログラムの開始は、特許審査分野における人工知能の本格的な統合の第一歩です。従来、先行技術検索はキーワードマッチングやマニュアルな分類に依存していましたが、AIの導入により、より文脈的で高精度な先行技術発見が期待されます。特に、技術的な複雑性が高い分野(ソフトウェア、バイオテクノロジー、機械学習など)では、人間の審査官よりも迅速で包括的な検索が可能になる可能性があります。
実務的観点から見ると、出願人や特許代理人にとっては多くのメリットがあります。まず、ASRN通知を活用することで、審査過程における予測可能性が向上します。従来、審査官が引用する先行技術は、出願人が予想しない文献である場合が少なくありませんでしたが、ASAP!プログラムにより、早期に潜在的な引用文献を認識することが可能になります。これは、より効果的な補正戦略の立案につながり、審査期間の短縮と手数料コストの削減をもたらします。
一方、懸念される点も存在します。AI検索システムが、特許出願の真の技術的革新性を正確に理解できるかどうかは、今後の実績データに依存しています。AIは統計的パターン認識に基づく技術であり、新規な技術領域や創造的な発想の飛躍を完全には把握できない可能性があります。特に、従来の分類体系に収まりきらない革新的な発明については、AIの限界が顕在化するリスクがあります。
プログラム評価と今後の展開
USPTOは、Government Accountability Office(GAO)の「効果的なパイロット設計に関するベストプラクティス」(Leading Practices for Effective Pilot Design)に基づいて、本プログラムの評価を実施する予定です。これにより、AI検索の精度、出願人の満足度、審査期間への影響、および潜在的なバイアス問題などが科学的に検証されることになります。パイロットプログラムの成功は、今後のAI活用政策の拡大を大きく左右する要因となるでしょう。
問い合わせおよび詳細情報については、AutomatedSearchPilot@uspto.gov、または571-272-7704までUSPTOに直接連絡することが可能です。本プログラムは2026年4月20日が出願期限となっているため、参加を検討する出願人は、早期に詳細情報を確認し、要件適合性の判断を進める必要があります。
この記事について
パテント探偵社 編集部
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