米国特許商標庁(USPTO)の特許審判部(Patent Trial and Appeal Board、PTAB)が35 U.S.C. §101(特許適格性)に基づく審査官拒絶を覆す割合が、John Squires長官の就任以降に約2倍に上昇し、その傾向が7ヶ月間のデータで固定化していることが明らかになった。ミズーリ大学ロースクールのDennis Crouch教授が2026年4月23日付のPatently-Oに発表した分析による。
Squires長官が就任した直後の2026年1月2日、CrouchはPTABの§101拒絶覆率が就任後の約12週間で2倍に増加したことを初報告した。しかし、短期間のデータでは一時的な変動の可能性が否定できなかった。今回の分析では、2024年1月1日から2026年4月22日までの期間に米国特許庁オープンデータポータルが§101扱いとして記録したex parte(職権)通常審決2,139件を対象に検証が行われた(§101の実質審理に至らなかった92件を除外)。
主要データ:覆率が11.0%から22.3%へ上昇
審判官個人の分析では、Squires就任前後で平均覆率が11.0%から22.3%へと11.3ポイント上昇した(within-judge分析)。この値は全体の+11.07ポイントの変化とほぼ一致する。
個別の審判官ではより顕著な変化が見られた。Khan審判官は就任前0%(n=7件)から就任後80%(n=5件)へ、Cutitta審判官は4%(n=24件)から80%(n=5件)へ、Bennett審判官は0%(n=16件)から60%(n=5件)へ、Engle審判官は15%(n=13件)から75%(n=4件)へ、Shiang審判官は24%(n=21件)から83%(n=6件)へ変化した。サンプル数が個別審判官では小さいため統計的有意性の主張は慎重に扱うべきだが、数十名の在職審判官にわたる全体的な変化は明確とCrouchは結論付ける。
Murphy審判官については特別な言及がある。2025年10月31日のEx parte Mercer事件(Appeal 2024-002371)において、§101拒絶を維持した24ページの詳細な審決を覆す2ページの逆転審決に署名した。Squires就任後のMurphy審判官の§101逆転率は、就任前の実績を約37ポイント上回る。
変化の要因:人員入れ替えではなく行動変容
Crouch分析の重要な知見の一つは、変化の要因が審判官の入れ替えではなく、在職審判官の行動変容にあるという点だ。2025年の「Fork-in-the-Road(FORK)」プログラムやDOGE関連の退職勧奨でPTABの人員は削減されたが、パネル構成の変化では覆率の変動を説明できなかった。
Squires長官は§101の敷居を下げる方針を繰り返し表明しているが、具体的な指導メモや先例的審決の公表なしに変化が生じている点が注目される。Crouchは、2025年9月26日の Appeals Review PanelによるEx parte Desjardins事件審決(Appeal 2024-000567)の優先指定が、その後のBerkheimer反疑念(anti-Berkheimer skepticism)の広がりのトリガーになった可能性を指摘する。長官は審判部の構成員であり、かつ長官であるため、公式のメモなしでも方向性を示すことができる。
変化は§101に特有、他条文への影響は限定的
変化が§101に固有のものかどうかについても検証が行われた。その結果、他条文の拒絶(例:35 U.S.C. §112)における覆率は小幅な変動にとどまり、§101ほどの顕著な上昇は見られなかった。むしろ§112拒絶の覆率は逆方向に動いており、Crouchが以前に指摘した「部分的な代替効果」と整合する。
覆率のピークは2025年11月の約29%で、現在は約20%に落ち着いている。20%という水準は依然として高いとも言えるが、§101以外の条文の覆率(約34%)には届かない。Squires体制下での§101に対する新姿勢は、適格性と他の法定要件の扱いの格差を縮小したが、完全には解消していない。
テックセンター別の分析では、TC3600(ビジネス方法・eコマース等)が§101審判の件数で最多かつ維持率が最も高い一方、TC2100(コンピュータアーキテクチャ・ソフトウェア)およびTC2700(通信)で最大の変化が見られた。
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パテント探偵社 編集部
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